血管

淡い匂いが血管からすっと消えて行くような気になる (次郎物語下村湖人


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罪人の血管を流れている血も、俺の血管を流れている血も、そう大した相違があるものではない (若杉裁判長、菊池寛


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大静脈、大動脈、肺静脈、肺動脈等の大血管を悉く糸をもってしばり、然る後にメスを以てそれ等の大血管を切り離すのだ。 (恋愛曲線、小酒井不木


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新九郎は自分の血管を流れはじめた長井の血を本当に見つめていたからである。彼を支えているものは、その新しい血でもあった。 (梟雄、坂口安吾


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虎蔵の全血管の中に新しい勇気が蘇って来た。 (白菊、夢野久作


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無常の風に吹きつけられると人の血管が破れるのにちがひない (無常の風、横光利一


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むくむくと血管を無理に越す熱き血が、汗を吹いて総身(そうみ)に煮浸(にじ)み出はせぬかと感じた。 (京に着ける夕、夏目漱石


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妾が血管に血の流るる限りは、未来においても妾はなお戦わん。 (妾の半生涯、福田英子)