渡る渡る

欲しかったものは清潔な空気と朝だった。

そんな状態がずっと続けば、

それだけでいいじゃないか。


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90度のそぶりをして、角ばって動いたことで、

なんだかどうでもよくなった。

同時に道にも眼が向かない。

気を散らすための景色も特にない。


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見るともなく。

歩くともなく。

凝視がほどけて、拡散していく。

たかだが、何歩かの歩行。

少しの高低差。

ゆっくりとしたカーブの形状。

それらを通過したことが、まぎれもない徒歩だった。


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徒歩の目的は目的地に着くことだけじゃない。

ただ地道な歩行という動作に、

変えがたい動き。

変えがたい血流。


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住宅をいくつか抜ける。

するとコンクリートで凹(ボコ)の形にエグリトラレタ河みたいなものがある。

橋みたいなものは木製で棒状につっぱって凹の上を結んで。

渡る。

渡る。

橋みたいなところの中間でとまることがたまにある。

立ち止まって凹の形状の下を見るともなく見る。


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たまに反射が水面から返ってくる。

まぶしい。

そんな気がする。

今は夜。夜は闇。

光はない。反射はない。

立ち止まらず、

渡る。

渡る。